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有責配偶者の離婚請求

夫が愛人をつくり同棲して3年になります。私たち夫婦には小学生の子供がいるのですが、夫からの離婚の要求に応じる必要があるでしょうか。

1   応じる必要はありません。
   ご質問にあるような離婚請求を認めると、妻は「踏んだり蹴ったりである」として、長い間裁判所は有責配偶者からの離婚請求を認めませんでした。
   しかし、昭和62年に最高裁は(1)夫婦の別居が相当の長期に及ぶこと、(2)夫婦に未成熟の子がないこと、(3)配偶者が精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれないこと、いう条件があれば有責配偶者からの離婚請求でも認めるようになりました。このように一定の条件のもとで離婚を認めるようになった背景には、結婚生活が破綻した以上、どちらに責任があるかに関係なく、回復の見込みのない結婚は離婚を認めるべきだという「有責主義から破綻主義」の流れがあります。
 離婚を認める場合の別居期間については、現在では最高裁で約8年、下級審ではもっと短い別居期間で離婚を認めた判例があります。しかし、離婚裁判には夫婦の年齢や同居期間、有責配偶者の背信性の程度などさまざまな事情があり、個々の事案ごとに総合的に判断され、別居期間だけで判断されるわけでありませんが、期間が短縮化される傾向にあります。
 未成熟の子というのは、親から独立して生計を営むことができない子供のことで、高校卒業までの子はこれにあたることが多いです。

2 その後、最高裁は、上記の(1)(2)(3)に加えて、(4)時の経過が当事者の諸事情に与える影響も考慮して判断されると判示しました。
 平成12年の仙台高判は、上記(4)の事情を考慮しながら、不貞行為があった妻からの離婚請求について、(1)別居期間は4年以上に及び、この間妻は夫なしに生活出来る基盤を築き、未成熟子2人は妻の下で安定した生活を送っている、(2)離婚が認められても夫は経済的に困窮しない、(3)夫は不貞の相手方から600万円の慰謝料の支払いを受け、精神的損害の回復が一応図られている、(4)夫は婚費月額5万円の支払いをせず、婚姻生活の維持に向けた努力を怠っており、婚姻継続を望む夫の意思が真摯なものか疑問が残る、(5)現状、妻と子供は経済的に困窮を強いられており、離婚が成立すれば母子手当の受給が可能となり、経済的に安定した生活が望める等の事情が認められ、離婚により夫が新たな打撃を受ける可能性は少なく、子の福祉にもかなうと言うべきで、本件離婚請求は信義則に反するとまでは言えないとして、離婚を認めました。
 なお、養育費の請求については、請求者の離婚原因についての有責性とは無関係に判断されますので、妻に有責性があったとしても、夫が養育費を支払わなくてよいということにはなりません。
 

3 判例の推移
  これまでの判例の推移をご紹介します。

  1. 夫が他に愛人を持ち、それがもとで妻との婚姻関係継続が困難になった場合には、夫の側から離婚を請求することは許されない(最高裁昭27・2・19判決 民集6-2-110)。
     
  2. 夫が、妻との間の婚姻関係が完全に破綻した後に、妻以外の女性と同棲し、夫婦同様の生活を送ったとしても、これをもって離婚請求を排斥することはできない(最高裁昭46・5・21判決 民集25-3-408)  この判例は、婚姻関係破綻後の有責配偶者からの離婚請求を認めたものです。
     
  3. 夫婦が相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、離婚により相手方が極めて苛酷な状態におかれるなど著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一ことをもって、その請求が許されないとすることはできない。
    有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居期間が36年に及び、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである(最高裁昭62・9・2判決 民集41-6-1423)。 上記の昭和62年の判例です。
     
  4. 有責配偶者である夫からされた離婚請求において、事実審の口頭弁論終結時、夫69歳、妻57歳であり、婚姻以来26年余同居して2男2女を儲けた後、夫が他の女性と同棲するため妻と別居して8年余になるなどの事情のあるときは、夫婦の別居期間が双方の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及ぶということができず、右離婚請求を認容することができない(最高裁平元・3・28判決、判時1315-61)。
     
  5. 有責配偶者である夫(大正15年4月生)からの離婚請求であつても、夫婦の別居期間が約15年6か月に及び、その間の子が夫と同棲する女性に4歳時から実子同然に育てられて19歳に達しており、妻(昭和9年3月生)は別居期間中夫所有名義のマンションに居住し、主に夫から支払われる婚姻費用によつて生活してきたものであり、しかも、妻が離婚によつて被るべき経済的・精神的不利益が離婚に必然的に伴う範囲を著しく超えるものではないなど判示の事情の下では、右離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情があるとはいえない(最高裁平元・9・7判決 民集157-457)。
     
  6. 一 原判決は、控訴人の婚姻関係継続の希望の実態につき、控訴人()自身、被控訴人(夫=有責配偶者)との婚姻関係が客観的に破綻し、回復することが全く不可能であることを知悉しながら、離婚条件として被控訴人所有の土地建物の債務を被控訴人が負担したまま、慰謝料若しくは財産分与としてその所有権を移転するのであれば、いわゆる協議上の離婚に応ずるが、そうでなければどのような提案もこれを拒絶し、客観的に婚姻関係が破綻したとしても婚姻を継続するという主として財産上の配慮による婚姻関係継続の意思ということを誤解しているというべきである。
    二 原判決は、控訴人の婚姻関係継続の希望と被控訴人の有責配偶者としての責任との関係で、その免責の条件がいわゆる相当長期の別居期間の経過とみなされている。
    三 本件婚姻関係において、すでに未成年の子はなく、原判決九丁表において、離婚に伴なう財産関係の清算につき、充分な提案がなされ、その総額は一億数千万円の対価であるにかかわらず、控訴人はこれを拒み、その離婚条件として、三億余円の時価評価のある被控訴人所有の土地建物と、同各不動産に設定登記ある九千万円に達する銀行よりの債務を被控訴人が負担することを求め、被控訴人に対し履行不可能な条件を提示したことにより、被控訴人の誠意ある提案を合理的理由なく拒絶し、且つ、同各不動産に対し、処分禁止の仮処分をなすに至っているものである。
    四 そこで、右相当の長期間は、婚姻関係継続の実質的理由と有責配偶者の責任として離婚に伴なう財産関係の清算につき、誠意ある解決の提案をなしたかどうか、との相関関係において理解されるべきところというべきである。
    五 よって、八年の別居に至る婚姻関係の実態、離婚に伴なう清算についての誠意ある提案、これに対し、別居前の多額の生活費を受け取るのみの事実上の家庭内別居状態の継続とこれによる別居の開始継続が、八年間におよんだ場合には有責配偶者としての責任はこれを許容するとしても、離婚の請求を安易に承認させる結果となることはなく、相当な期間は経過したものというべきであり、原判決は、かかる解釈を誤ったものというべきであり、判断の誤りは原判決の結果に影響を与えること明かである。
    子供は成人し、別居期間8年の夫婦につき、有責配偶者()からの離婚請求を棄却した高等裁判所の判決を破棄した(最高裁平2・11・8判決、家裁月報43-3-72)。
     
  7. 別居期間が9年8か月の妻(有責配偶者)からの離婚請求が認められ、妻から夫へ慰謝料200万円、夫から妻へ財産分与700万円が認められている(最高裁平5・11・2判決、家裁月報46-9-40)。
     
  8. 有責配偶者である夫からされた離婚請求であっても、別居が13年余に及び、夫婦間の未成熟の子は3歳の時から一貫して妻の監護の下で育てられて間もなく高校を卒業する年齢に達していること、夫が別居後も妻に送金をして子の養育に無関心ではなかったこと、夫の妻に対する離婚に伴う経済的給付も実現が期待できることなど判示の事実関係の下においては、右離婚請求は、認容されるべきである(最高裁平6.2.8判決、判例時報1505-59)。この判例は、間もなく高校卒業の未成熟子がいる場合に有責配偶者からの離婚請求が認められたケースです。
     
  9. 夫は有責配偶者で、別居期間は6年以上、二人の子も成人して大学を卒業していて夫婦間に未成熟の子供がいないこと、妻は学校に勤務して相当の収入を得ていること、夫は、離婚に伴う給付として妻に自宅建物を分与し、同建物について残っているローンも完済し続けるとの意向を表明している事情に考慮し、離婚請求を認めた(東京高等裁判所平成14年6月26日判決、判例時報1801ー80)
     
  10. 別居9年以上(同居約14年)の夫婦間の長男は,四肢麻痺の重い障害を有するため,日常生活全般にわたり介護を必要とする状況にあり,成人に達していても未成熟の子とみるべく,その子の世話をする相手方配偶者は,その年齢(54歳)からしても就業して収入を得ることが困難な状態にあり,また,住居明け渡しの問題もあり,離婚により直ちに経済的困窮に陥ることが十分予想されるとして,離婚請求が棄却された(東京高等裁判所平成19年2月27日判決)
     
  11. 原告()と被告()との婚姻破綻の原因は,もっぱら,原告の女性問題にあったものと認められ,かつ,別居後,原告は,何ら被告及びその子らの生活を顧みることがなかったもので,その有責性の程度も極めて重いものであること,加えて,原告は,被告に無断で協議離婚届を出すといった行為にまで及び,被告をして,その誤った戸籍記載を是正するために離婚無効の訴訟を提起せざるを得なくさせたものであること,さらには,原告は,離婚無効の判決が確定し,婚姻記載が復活するや,ほどなく離婚調停を申し立て,本件訴訟の提起に至ったものであるうえ,本件訴訟においても,被告に対する慰謝の方途を講ずる提案はないばかりか,むしろ,婚姻破綻の責任の大半は被告にあると主張して離婚を求め,これに対し,被告は,夫として親としての情や責任,義務をまったく果たしていない原告の離婚請求を受け入れることはできないと主張しているといった本件の一連の経緯にも照らすと,その別居期間が既に17年を超える長期間に及び,原告と被告との間の子らも成人し,結婚あるいは就職していること等を考慮してもなお,原告の離婚請求をそのままこれを認容するのは,正義,公平の観点からも,また,信義則に照らしても相当とは認めがたく,有責配偶者の離婚請求としてこれを棄却するのが相当である(神戸地方裁判所平成15年5月8日判決)。
     
  12. 有責配偶者である夫からの離婚請求につき,別居調停後約13年経過し,18歳と16歳2人の未成熟の子がいる場合において,慰謝料150万円と二男の大学進学費用150万円を支払う旨の訴訟上の和解をした上で,原判決を取り消し請求を認容した(大阪高等裁判所平成19年5月15日判決)。
     
  13. 有責配偶者である夫からの離婚請求につき,別居期間が15年以上経過し,当事者間の3人の子はいずれも成年に達しており,夫婦間の婚姻関係は既に破綻しているが,妻は夫から婚姻費用分担金の給付を受けることができなくなると経済的な窮境に陥り,罹患する疾病に対する十分な治療を受けることすら危ぶまれる状況になることが容易に予想されるとともに,長男については,身体的障害及びその成育状況に照らすと後見的配慮が必要と考えられ,夫の長男に対する態度からすると,離婚請求が認容されれば,妻が独力で長男の援助を行わなければならず,妻を更に経済的・精神的窮状へ追いやることになるとの事情の下においては,離婚請求を認容することは,妻を精神的,社会的,経済的に極めて苛酷な状態におくことになり,著しく社会正義に反し許されない。
    (東京高等裁判所平成20年5月14日判決)


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